裏方ほどおいしい仕事はない!

裏方ほどおいしい仕事はない!
[著]野村恭彦
価格:1,500円(税込)

序章 35歳で「若手」と言われて

 いまどき、社員の平均年齢が40歳を超えている会社も珍しくない。ちなみに上場企業の平均年齢は約38歳。あなたの職場では、いったい何歳までが「若手」だろうか?
 以前、こんなことがあった。会社の開発部門の役員に組織横断のプロジェクトの説明に行ったところ、役員から「ウチの部からも一人、若手を出すよ」と言っ てもらった。ありがたい話である。だが、そこからが問題だ。35歳の社員が指名されてやってきたのだ。
 社内でいう「若い」「若くない」は相対的なものだ。役員が50歳を超えていれば、35歳も若いと言えなくもない。政治家の世界では60歳も若手のようだ し。だが、「若手=半人前」という認識があるとするならば、「若手」扱いされる年代が高まることは、大きな社会問題と考える必要があるだろう。
 なぜなら、若手といっても、20代、30代の社員のほうが、上司よりも知識も実務的なスキルも上である場合が多くなってきているからだ。上司が若手に絶対勝てることといったら、その会社の中での生きる知恵くらいのことだろう。
 「こういう案件は、ウチではあらかじめ法務の○○さんに話を通しておかないと、通るものも通らなくなるんだよ。そんなこともわかってないの」など、はっ きりいって、会社を一歩出たらまったく役立たない知識である。だが、会社の中でしか通用しない上司は、それを仕事のできる・できないの基準として持ち出 す。
 なにがまずいかといえば、「半人前」であるはずの若手のほうが、実は上司より仕事ができるという「ねじれ現象」がおこることだ。器量のある上司なら、若 手を一人前扱いし、新しいことにチャレンジさせたり、さらに成長できるような仕事を与えたりする。しかし、そんな「夢のような」上司はめったにいない。た いていは、できる部下は「若いくせに生意気なやつ」としかうつらない。ねじれが解決されない限り、若手は腐っていくばかりである。
 会社に一生世話になれるなどと期待していない若手は、会社を出ても役立つ知識やスキルを身につけたい。社内でしか通用しない知識やスキルをふりかざして 生きている上司から見れば、プライオリティがまったく逆さまなのである。だから、いつまでたっても上司と若手の間の溝は埋まらない。

 若手であるだけで、とっておきの企画を通しても、プレゼンは先輩に譲らなければならない。先輩のプレゼンがへたくそでイライラすることもあるだろうし、先輩があたかも自分のアイデアであるかのようにほめられるのを見るのも耐えがたいだろう。
 若手であるだけで、会議で軽んじられることもある。本質を突いて先輩を困らせていると、あなたが若手というだけで、「そんなことはもういい」と遮られることもあるだろう。
 若手というだけで、小さな顧客しか任されないこともある。どんなに足を棒にして通いつめても、商談規模が小さい。仕事のできない先輩が、たまたま運がよ くてとれたひとつの商談が、あなたが計画的に進めて、顧客の圧倒的な信頼を得て獲得した複数の商談よりも、契約の合計額が多いということもあるだろう。
 仕事の遅い先輩の資料作成を手伝って残業することがあっても、ネットワーク環境の設定やら、場合によっては上司のパソコンのセットアップまでやらされても、評価は「成果主義」という。
 能力を発揮しなければ怒られるし、発揮して先輩を出し抜いても水をさされる。もっと優秀な上司のいるところで働きたい、そうしないと自分は腐ってしまうのではないかと悩んでいる人も多いだろう。
 ただただ嘆くしかないのだろうか、「若手はつらいよ」と――。もちろん、そうではないから本書があるのだ。若手であっても、権限がなくても、組織を動かす仕掛けをつくることはできる。

なぜこれほどまでに若手受難の時代になったのか

 会社の業績も社員の人数も、右肩上がりに増えていくのが当たり前の時代、あなたの上司は、自ら望まなく ても重要な仕事が与えられ、つねにストレッチを迫られてきた。つまり、実力以上の課題を与えられ、押し上げられるように課長や部長になってきたのだ。だか ら、能力よりも低い役割に悩むあなたの立場など、到底理解できようはずがない。
 入社して10年たっても、自分の後輩がチームに入ってこない社員が増えてきている。平均年齢がそのまま上がっていくだけなので、いつまでも若手扱いされ 続ける。新しい部門ができる、あるいは部門横断のタスクフォースに即戦力の優秀な社員だけが集められるというときも、若手と呼ばれる年齢がぐっと上がって しまう現象は起きやすい。
 入社してから35歳くらいまでの約10年間は、知力・体力すべてに関して、最もパフォーマンスの高い年代だろう。本来であれば、きわめて困難な課題に挑戦し、何度も失敗しながら、それでも乗り越えて、大きく成長するときである。
 サイバーエージェントの藤田晋社長は、著書『藤田晋の仕事学』の中で、「私は現在35歳。ビジネスの世界に身を置くようになってから12年経ちますが、同世代の誰よりも成長してきたと自負しています」と書いている。あなたはどうだろうか?
 この時代を有益に過ごせるかどうかは、上司の「若手育成」の考え方に大きく依存する。悲しいかな、若手育成についての組織的な方法論を持つ企業は、日本 にはほとんどない。若手育成は、「上司の思いこみ」に基づいて行われる。自分が上司にしてもらったことの繰り返しや、他人の受け売りがほとんどだ。思いこ みでコーチングもどきをしてみて、うまくいかないとすぐに「こいつは歩み寄ってもダメだ」となる。自分のコーチング・スキルが中途半端であっても、それに 気づかない。
 「若手の時代」をいかに有益に過ごすかは、あなたの一生に多大な影響を与える。この時期の機会損失は、取り返しがつかないほど大きい。
 しかしこの問題が、一筋縄ではいかないのも事実だ。問題の根っ子は、結構深いところにあるからだ。
 バブル崩壊以降、経済成長が鈍化してきているのは、ご承知の通りだ。その中で、経営者は株主から売上・利益を向上させよというプレッシャーを受けてい る。いきおい、多くの経営者の関心は、長期的な事業創造や人材育成よりも、短期的な利益確保に向かってしまう。株主優位の経営では、短期的な成功があっ て、初めて長期的な戦略を実行する権利を得ることができるからだ。長期的投資を絞り、リストラに走れば、翌年の利益は確実に確保できる。この誘惑は、どん なに理想主義の経営者をも惑わしてしまう。だがそれは悪魔に魂を売るようなもので、数年後には「成長の源泉がない」という、問題に悩まされることになる。
 「組織のフラット化」という、若手の挑戦機会を増やそうという施策も、実際のところは体のいいポスト削減であることが多い。「成果主義」「実力主義」 も、本当の狙いは労務コスト削減であったりする。給与が下がる人はいても、上がる人はめったにいない。
 そして何より恐ろしいことに、いまなお会社の制度の多くが、成長したい人にとっては最悪だが、「会社にしがみつきたい」人にとっては、この上なく居心地のよいものになっている。
 会社が伸びていた時代に管理職(つまり上がり!)になった人は、給料も悪くないし、会社に言われた通りにコスト削減に取り組めば、自分が辞めさせられる こともない。組織全体の仕事を改革しようなどとは、夢にも思わない。だから若手にも、創造性より、言われた通りに仕事をこなすことを期待する。

がまん比べに勝ち抜けば「無能が管理職」の仲間入り

 今はまだ若手の人も、がまん比べに勝ち抜けば、45歳くらいになると順送りで管理職になれるだろう。挑戦の機会も責任もないままに。きっとその頃、あなたもめでたく「無能な管理職」のひとりに仲間入りだ。
 きっと、口だけはもっと達者になっているだろう。稟議書の回し方のアドバイスには、キレが増すだろう。そして今度は自分が、チームの若手にダメ上司とい われる。でも、気にすることはない。管理職になるということは、そういうものなのだから。なんて、あきらめてもらっては困る! 冗談じゃない。そういうも のの考え方は、日本を滅ぼす。
 考えただけでぞっとするではないか。もっともパフォーマンスの高い時期をがまんして過ごして、中年になったら、今度は若手にがまんさせるのが仕事になるなんて。そんな人生を送りたい人は、さすがにいないだろう。
 思い出してほしい。会社を選ぶとき、どんなことを想像していただろうか。ブランドで会社を選んだ人もいるだろう。そのブランドは、合コン以外で、何か役 に立っただろうか。世界を飛び回る商社マンにあこがれて入った人もいるだろう。まさか、海外出張に行ったこともなく10年が過ぎてしまったりしていないだ ろうか。ベンチャー企業を興したくて、まずは会社の仕組みを学ぼうと、大企業に入った人もいるだろう。すっかり長いものに巻かれて、「若い頃は俺もベン チャーにあこがれてたよなあ」なんて、学生時代のロックバンドみたいな思い出になってしまってはいないだろうか。
 思い出してほしい。仕事を始めたときにどんな夢を持っていたか。あなたの選んだ会社は、あなたの夢を実現する力を持っているはずだ。あなたに足りないの は、権限だけのはず。自分が社長になったつもりで考えれば、夢を実現できるに違いない。会社を動かすのに大きな力はいらない。

 この本で伝えたいことは、仕事は与えられるものじゃない、ちょっとした「仕掛け」を行う勇気と知恵があれば、会社をいくらでも動かせるよ、ということだ。
 会社を動かす裏方の仕事の代表が、「事務局」といわれる役割だ。会社の変革や新事業の検討など、組織を超えた活動には必ず事務局が置かれる。事務局の企 画と運営、あるいは志と粘りで、プロジェクトの成否が決まるといっても過言ではない。この事務局の持つ潜在的なチカラに着目したのが、本書のテーマ「事務 局力」である。
 事務局力の最大の価値は、たとえあなたが若くても、会社を動かすことが、そんなに難しくなくできてしまうところにある。大きな力も要らない。なぜなら、会社は、一人ひとりの心理で動いているからだ。それを理解すれば、テコの原理で会社は動く。
 たとえば、成果を出したい課長の心理は、部下の箸の上げ下げまで管理する行動を生む。このような状況では、いくら意識の高い部下が行動を起こそうとして も、妨害されてしまう。こういうときは、役員や部長を説得して、「変化を起こすことこそ課長の成果である」という状況をつくってしまえばいい。そうすれ ば、課長の行動は変化の妨害から、変化の促進へとあっという間に変わるだろう。これは、私が、これまで50社以上の大企業の組織変革をコンサルティングし てきて、つねに見てきた行動原理である。
 コンサルティングのプロジェクトでは、必ずクライアント企業側に「事務局」がつくられる。コンサルタントの仕事は、彼ら事務局と一緒に企業の組織変革を 成功させることである。実際、コンサルの能力の本質は、権限なしに組織を動かす力、つまり事務局力にあるのだ。
 社長の心理、役員の心理、部長の心理、課長の心理、スタッフの心理。プロジェクトの成功の秘訣は、コンサルと事務局が、組織内外の利害関係者の心理をど れくらい深く理解できているかにかかっている。「その人の立場で、その人の感情を想像する」こと、それに尽きるのだ。
 社長は今、何を課題に感じているのだろうか、潜在的には何を実現したいと思っているのか。社長になったばかりであれば、新聞に取り上げられるような象徴 的なイベントがほしい。前任者と異なる、自分らしいコンセプトもつくりたいだろう。こういった本音の心理を考えて、実現の道筋を示すことが、コンサルタン トや事務局に共通する大事な仕事なのである。
 社長や役員の潜在的な課題意識を明快な言葉にすることができれば、確実に仕事を得ることができる。意外に思われるかもしれないが、コンサルの仕事とはそ れだけのこと、といっても過言ではない。こういう仕事が成り立つのも、それだけトップの本心が社内で理解されていないことの裏返しといえるだろう。経営 トップであっても、自分の気持ちを誰かにわかってほしい。わかってくれる人に仕事を任せたいのだ。それがたとえ社外の人であっても。
 組織行動学の権威であるエドガー・シャインは、近著『人を助けるとはどういうことか』で、クライアントの多くは自分の抱える課題を誤って表現するもの だ、と述べている。真の目的をクライアント本人が気づき、自ら答を見つけていくことの支援。それが、40年前にシャインが提案したプロセス・コンサルテー ションの本質である。
 「わかってほしい」のはトップばかりではない。部長だってそうだ。トップの掲げる改革の成否が自分の出世を左右するとなれば、必死に取り組むだろう。だ が、そういうよこしまな考えでは改革は成功しないし、部長だってそれだけで動いているわけではない。こういうときのコンサルの仕事は、部長の心の中に深く 沈み込んでしまった「理想」を思い出させ、それに基づくシナリオをつくって、部下の前で奮い立つような演説をさせる。こうして、「もともと改革者だった」 部長に本来の仕事をさせるのだ。
 コンサルの仕事はここで終わらない。現場で改革に反対する社員をやる気にさせることも必要だ。改革に抵抗する人の多くは、何らかの不安を感じている。 却って仕事が増えるのではないか、自分の仕事の価値がなくなるのではないか、等々。こうした一つひとつの不安に共感し、それぞれの人にとっての改革の意味 を一緒に考える。
 こうして、その会社のあらゆる階層、職種、職場の人たちと一体感を持ったときに、コンサルティングは完成するのだ。このような、コンサルと事務局に共通する、「裏方」から会社のあらゆる人を動かす能力を「事務局力」と呼ぶ。
 事務局力のないコンサルタントは、分厚いレポートを提出し、「あとはトップダウンで実行してください」と言う。事務局力の高いコンサルタントは、やる気 に満ちた実行チームをクライアント企業の中に作り上げる。成功するのは、もちろん後者だ。コンサルタントの真の実力は、事務局力にあると言っても、決して 言いすぎではないだろう。

一本の上向きな矢印になれ

 この本は、著者の専門分野である、イノベーションと組織行動に関する実践的ノウハウに基づいて書かれたものだ。クライアント企業の事務局との悲喜こもごも、長年コンサルタントという仕事を続けてきた間の経験知もいっぱい詰めこんだ。
 このような経験を積んできた者として、実感を込めて伝えたい。職場が不機嫌だろうが、ギスギスしてようが、あなた自身が変えていくことができる、という ことを。自分のがんばりを認めてくれない上司がいて、そのうえ、今の仕事が自分のやりたいことと違っていたとしても、あなた自身で変えていくことができ る。あなたが態度を変えさえすれば、周りはぜんぶ、変わっていく。そんなのウソだと思った人にこそ、この本を最後まで読んでもらいたい。
 こんな絵を想像してほしい。すべての矢印が下を向いている。たくさんの矢印だ。その中で、1本だけが上を向いている。人間の目というものは、この1本に すぐ気がつくようにできている。その1本は、フツーの矢印なのだけど、他の矢印が全部違う方向を向いているから、その1本が「特別な矢印」になる。

 会社の中で、こんな台詞を聞くことがあるだろう。

「会社は株主のものである」
「仕事は面白くないから、給料が貰えるんだ」
「これはウチの仕事じゃありません」
「ウチの社長にはビジョンがない」
「あの部長、ぜんぜん仕事できないから」

 これらの言葉に共通しているのは、仕事が楽しくないことをすべて「他人のせい」にしていることだ。組織では、誰もが他人を評価し、批判する。
 綱引きをしていて、勝つことよりも、誰が強く引っ張ったか、誰がサボったかを言い争っているチームを想像してほしい。人事評価も、これに似た滑稽な姿で ある。会社がやっていることは、笑えることだらけだ。最大の危険は、それがおかしなことだと気づくセンスを失ってしまうことである。
 忘れてならないのは、組織には、個のモチベーションを「与えられた目標の達成」にのみ向かわせる負のスパイラルが存在することだ。それは、まじめに業務に取り組めば取り組むほどひどくなる。
 企業には何らかのビジョンがある。それを実現するために人が集まり組織がつくられる。組織はそのビジョンをできるだけ効率的なやり方で実現できるフォー メーションであることが理想だ。それは必然的に分業を生む。そして、生産性のボトルネックを生み出さぬよう、各人の評価がなされる。
 しかし、評価をされるとなると、人は自分を守ろうとする。自然と、助け合いの文化が薄まり、組織の壁が生まれる。効率化を必死に進めるほど、組織のタコ ツボ化が加速されることになる。評価やルールを強化するほど、個人はタコツボにはまりこむ。その結果、ビジョン(理想)と個の活動(現実)が乖離してしま う。
 このようなタコツボ化した組織のもとで、「自分の仕事をスピーディにこなしている人」=「生産性の高い人」という認識がまかり通っていることは、恐ろし いことだ。組織全体でみると、何も変化が起こせないような危機的状況に陥っているときに、その最大の加担者である「自分の仕事しかしない人々」が、最も生 産性の高い人だと認識され、評価され、昇進しているのだから。
 私たちは、生産性の考え方を180度転換しなければならない。ホワイトカラー部門に必要な生産性は、自分の仕事をスピーディにこなすことではなく、変化 に気づいてから、提案し、決定・実行するまでの「革新のスピード(革新生産性)」である。決まり切ったことをスピーディに行うという旧来の工業社会的な生 産性の考え方は、組織を誤った方向に導くことになる。
 「何か新しいことをやろう!」と誰かが気付きを得たとき、全体がスピーディに動く。そのような組織能力が重要なのである。もっと顧客に喜びを、もっとい い会社に、もっといい社会に、という意思が、組織をドライブする。それが「革新生産性」の高い組織像だ。
 とはいっても、現実にすでにタコツボ化した組織では、革新生産性を上げようにも、あなたの気づきに誰も乗ってはこない。だが、そこであきらめる必要はな い。タコツボに向かう負のスパイラルが心理メカニズムで起きているのであれば、タコツボを乗り越える心理メカニズムをつくってあげればよい。

誰にでも勝手に始められる「事務局」という仕事

 そのキーワードが、本書で提案する「事務局力」だ。事務局とは、組織横断活動などの企画・運営を行う、 目的先行・期間限定の機関である。ご存じの通り、事務局は参加メンバーの日程調整、司会進行、議事録発行などの雑務全般を引き受ける、つまりは裏方だ。本 書では、この事務局が戦略的に動けば、組織を巧みに動かすことができることを伝えたい。
 「事務局力」は、タコツボ化に向かう負のスパイラルから抜け出る、創造的な組織運営を可能にする。組織横断で動けるキーパーソンを発見し、各参加者に とっての意味を明確にするコミュニケーションをとる。メンバーを集めたら、お互いが尊敬しあい、学習しあえるようなファシリテーションを行い、全員のモチ ベーションを高める。
 その結果、自分を守ることよりも、「この仲間となら何かできるかもしれない」という期待感が生まれる。そうしたらしめたものだ。てごわい問題にも協力して立ち向かうことができるようになる。
 先ほど紹介したサイバーエージェントの藤田社長は、「実は、優れたマネジメントをする人や成果をあげるという人には、『まず環境を整えていく』という特 徴があります」と言っている。この「環境を整えていく」という考え方は、事務局力の本質ときわめて近いと思う。ありたい方向に人を説得して向かわせるので はなく、そちらに向かってしまうような状況をつくっておくのだ。
 イノベーションは、意図した通りに起きるものではない。それゆえ成果ではなく、プロセスの質を高めることが重要になる。短期的成果をほしがる経営トップ は、イノベーションの天敵だ。経営トップの心理を先回りし、「短期的な成果として、プロジェクトがどれだけ多くのものを学んだかを評価すべき」という洞察 をしっかりと伝えることが、事務局の最大の役割になる。
 事務局が創造的な仕事だと思っている人は、思いのほか少ない。事務局という役割を与えられても、雑務に忙殺され、無難に終了させることばかり考えている人もいるだろう。しかし、これをチャンスだと捉えられるかどうかで、会社の中での人生は変わる。
 さらに言えば、事務局は、組織を超えた活動の世話役にすぎないのだから、誰にでもいつでも「勝手に始める」ことができる役割である。この立ち位置をとることで、会社を動かせる可能性は、一気に高まる。

 繰り返そう。フツーの矢印は、他の矢印がぜんぶ違う方向を向いていると、特別な矢印になる。つまり、今の時代はチャンスだ。みんなが同じ方向、それもお かしな方向を向いているのだから。勇気をふりしぼって、他人と違う価値観で生きよう。違う方向の1本の矢印となって、仕事をしよう。
 その価値観は、あなたの人生にとって、自然なものであるはずだ。なぜならあなたは、会社の人たちの価値観が「おかしい」と思っているからだ。きっとすべての経営者や社員から、「フツーのあなた」は、「特別なあなた」に映るはずだ。
 黒い駒だらけのオセロ盤、その四隅のひとつに白い駒を置く瞬間。さあ、大逆転が始まる。

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