ビジネス三國志

ビジネス三國志
[著]石井淳蔵
[著]栗木 契
[著]清水信年
[著]西川英彦
[著]水越康介
[著]吉田満梨
価格:1,600円(税込)

プロローグ/ビジネス三國志の狙い

 紀元200年頃、魏・呉・蜀の三国が中国全土の覇権を争った。その時代が「三國志」の時代と呼ばれるのは、歴史家陳寿(233~297年)がこの 時代の出来事を『三國志』として記したことによる(後に「正史」となる)。『三國志』は、やがて『三國志演義』を通じて人口に膾炙する魏・呉・蜀の三国の 壮大な興亡史となった。
 その前半の主人公は劉備玄徳。関羽や張飛などの豪傑と運命的な契りを結んで立ち上がり、そして玄徳自身三顧の礼をもって迎えた諸葛孔明を参謀役とし、蜀 の国を打ち立てていく。国は小さく資源にも乏しい蜀ではあるが、玄徳は、豪傑や参謀に慕われながら、大国の魏と呉に挑む。
 後半の主人公は諸葛孔明。孔明は、玄徳亡き後、玄徳の遺子を抱き自らの命を削りながらなお魏との戦いに挑む。だが、志半ばにして病に倒れる。しかし、 「死せる孔明、生ける仲達を走らす」と言われるほどに優れた知謀と、亡き主君の大義に殉じる悲壮な心情は、後半のハイライトをなす。
 個性的な英雄豪傑、大義を報じての建国、臣君の恩愛……、面白さは尽きない。だが、この物語が現代の日本にあってもなお人気を博すのは、蜀建国の英雄豪 傑伝に留まっていないからだ。相争う三国の興亡をテーマとしたことがドラマチックな要素を生んでいる。蜀の劉備と諸葛孔明、魏の曹操、呉の孫権たち英雄 が、それぞれの思惑を胸に戦う。赤壁の戦いをはじめとする幾多の戦場での知恵比べ、敵との政略的連携等々、互いの思惑が交錯する。その一方で、それぞれの 国々が、戦いを通じて自らを鍛え、大義を研ぎ澄ましていく。ライバルの存在が自らを研ぎ澄ますという逆説。それがいつの世にも変わることのない面白さを生 み出していく。
「厳しい争いが、戦う者を鍛える」。われわれも、そうした教えに倣い、ライバル三者が織りなす戦いの物語を現代の企業の競争の中に再現したいと思う。
 ビジネスの場で競争する各社はそれぞれに、「志」と「戦略」をもつ。競争各社は市場の覇権を争う中で、「志」と「戦略」とを研ぎ澄ます。ギリギリの戦いの中で新しい着想が生まれ、ときには、誰の思惑にもなかった現実が生まれる。
 競争を相手を殲滅したり市場を破壊したりするのは競争の本質ではない。「質のいい競争」は、新しい着想や新しい市場を生み出し、そしてそれに必要な新し い資源を育てていく。その結果、そうした競争に遭遇した各社は、それぞれに次なる成長のための展開力(志、戦略、資源)を得ていく。こうして、競争こそが 価値あるものをつくり出す源泉と見なされることになる。
 競争の中で自らを鍛え、そして新たな価値が生まれるというそのプロセスを描くこと。それも、ライバル三者それぞれの当事者の目線に立って描くこと。これが、ビジネス三國志の狙いになる。
 歴史上の三國志が私たちに与えた感動と知恵。現代のビジネス世界にも、それはきっとある。それに少しでも迫ることを目指して、現代の三國志物語を語り継いでいくことにしよう。

流通科学大学学長 神戸大学名誉教授
石井淳蔵

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