一流アナリストの「7つ道具」

一流アナリストの「7つ道具」
[著]ロバート・アラン・フェルドマン
価格:849円(税込)

序章 アナリストほど掛け算が大事な仕事はない

 私はモルガン・スタンレー証券で経済調査部長を務め、同時にマネージングディレクター(MD)として管理業務に携っています。
 МDの主要な業務の一つは採用です。意外なことに、どんな基準でアナリストを採用しているのか、という質問を社外の人からよく受けます。
 慶應義塾大学や東京女子大学などで講義を行っても、経済学の話よりも採用基準の話のほうがずっと受けがいいのです。それほど多くの人がアナリストになり たがっているとは思えませんが、アナリストという、「世の中のことが人より見えていそうな人」が、どんな仕事の仕方をしているのか、興味を持っている人は 多いようです。
 アナリストは、専門職ではありますが、情報が溢れ、ものすごいスピードで世界が動いているいまの時代、冷静に、客観的にものごとを分析し、人に伝えるアナリスト的なスキルは、どんな仕事にも共通して必要だということでしょう。
 そうした考えから、アナリストに必要なスキルとそれを身につける方法について、一冊の本を書くことを思いつきました。
 本書では、私が重視しているアナリストの採用基準を「七つのスキル」に分け、それぞれ一章を立てて説明していきます。

 第1のスキル=「分析力」
 中身を見抜く力です。バランスシートをどうやって読むのか、マクロの環境をどうやってつかむか。情報から「意味」を引き出す能力です。
 第2のスキル=「プレゼン力」
 自分の意見を人に伝え、人から意見を聞き、相手の反応を踏まえた会話をする力です。
 第3のスキル=「人間力」
 多様な相手と共に仕事をする能力です。単純な協調性ではなく、チームとして効果的に働くための技術です。
 第4のスキル=「数字力」
 数字の意味を正しく理解し、効果的に数字を利用する力です。
 第5のスキル=「エネルギー管理力」
 健康管理、時間管理、空間管理を効果的に行う能力です。
 第6のスキル=「言語力」
 外国語は10年先、20年先を考えると一段と重要性が増してきます。とくに英語は、インドや中国の人と話すためにも必要です。
 第7のスキル=「商売力」
 顧客のニーズをつかみ、どこにビジネスがあるのかを察知する力です。

 どれか一つのスキルだけが特に大事ということはありません。アナリストとしての能力は、七つのスキルの複合効果で決まってくるのです。一つのスキルが弱くても、他の六つでカバーすればよい、というわけにはいかないのです。
 アナリストの能力は「足し算」ではなく「掛け算」で決まります。足し算なら一つがゼロでも他のスキルのレベルが高ければ補うことができますが、掛け算では一つがゼロなら、他がいくら高くても、全体ではゼロになってしまいます。
 この違いは、スキルの磨き方にも大きく影響します。
 スキルが足し算関係にあるなら得意科目を強化したほうが得策で、掛け算関係なら逆に苦手科目を強化することが得策になります。
 スキルの足し算と掛け算について、より詳しく知りたい方は、章末の囲みをお読みください。

 こうした掛け算関係はアナリストに限らず、ビジネスのあらゆる局面に存在します。
 私はかつて6年間IMF(国際通貨基金)にいたことがあります。そこでは主に各国の政府相手に仕事をしていました。スリランカで財務官僚のトップにあた る人と話をしたときのことです。彼は私にこう言いました。「明日、あなたが財務大臣と話すときには、大臣でもわかるような話し方をしてください」
 大臣は政治家で、経済の専門家ではありません。難しい数字はわからないから、わかるように話したうえで、説得してください、という意味でした。
 経済の知識があっても、英語が話せても、相手を見て効果的に伝えることができるプレゼン力がなければ仕事にならないのです。

 もう一つ、「掛け算」のお話をしましょう。
 みなさんもよくご存知の「千円札」の人、野口英世は、科学に優れた才能があり、言語能力も高く、20歳までにフランス語とドイツ語を独学で覚え、その後に英語もマスターしました。
 けれどもお金の使い方は下手で、お酒に弱く、酔うと乱暴を働きました。自制心が足りなかったのです。それで大変な目に遭っています。野口は、苦労してその悪癖を克服しました。それによって世界的な医学者として道が拓けたのです。
 どんなに才能があっても、自制心に欠けている人は成功できない。「自制心のなさ」という一点で、他の才能の価値もゼロになってしまうのです。

Facebookに投稿

最近チェックした商品