存続・発展し続けることの難しさ
2006年の新語・流行語大賞の上位に「格差社会」がランクインされたように、所得格差、地域格差、教育格差など、格差社会論争がかまびすしい。格差社会論争は経営の世界でも例外ではない。
近年、グローバル化、IT化、少子高齢化など日本経済が大きな構造変化に直面している中、中小企業間においても経営格差が目立つようになってきた。
中小企業(会社数+個人事業所)は、全体の企業数の99.7%、従業員数で69・4%を占め、日本の産業構造を支える大きな存在になっている。しかし、 1990年代より、廃業率が開業率を上回る状況が続き、1986年に532.7万社あった中小企業は、2006年に419.7万社となり、なんと約100 万社以上企業数が減少したことになる(総務省「事業所・企業統計調査・再編加工」2006年)。
町工場からスタートして上場企業になっている地元優良企業の経営者に、「貴社の今後に向けての目標はなんですか」と質問したときのことを思い出す。経営 者は、少し考えたうえで、「いろいろあるかもしれないが、とにかく絶対つぶれない会社にすることだ」と答えられた。今後のグローバル戦略などを予想してい た私にとって、改めて経営の難しさ、奥深さを感じさせられた機会であった。
P・F・ドラッカーは、1954年に『現代の経営』(ダイヤモンド社)という著書の中で、「事業の第一の義務は、なによりも存続することである」と述べている。
まさに、環境変化に対応できない企業は、その存続すら許されない厳しい時代に入ってきたのである。その一方で、厳しい環境の中、規模は小さいものの、し なやかに環境に対応することにより、独創的な製品・サービス、事業の仕組み、あるいはマネジメントにより、好業績をあげている元気な企業も多く存在する。
経営コンサルタントという職業を通じて、これら元気な企業の経営者とお会いさせていただくと、やはり中小企業には、大企業にない良さがたくさんあり、かつ今後も、ますますその役割は強まっていくものと確信する。
本書の意図
コンサルティングや取材の場を通して、元気な企業の経営者から実に多くの有益な知見をいただいてきた。その貴重な情報や体験を少しでも多くの皆様と共有 したいという思いから、弊社機関誌『Best Partner』において、2003年4月から現在まで「挑戦する独創企業」シリーズとして取材を重ね連載してきた。
昨年は、そのシリーズの中から、20社の中小企業の事例を中心に『挑戦する独創企業』(プレジデント社)を上梓させていただいた。本書は、その続編にあたるものである。
本書で紹介させていただく企業は、前書で掲載させていただいた企業と同様に、製品・サービス、事業の仕組み、あるいはマネジメントにおいて、独自の取り 組みを展開し、好業績をあげている中小企業ばかりである。これらの企業の取り組み事例を通じて、中小企業の新しい動きとともに、時を越えて存在する経営の 基本原則のようなものをお伝えできればと思っている。
また地域の大学の研究者である神奈川大学経営学部海老澤栄一教授、横浜国立大学経営学部山倉健嗣教授にも、中小企業の経営、そして独創企業を展望するアプローチでそれぞれ組織論、戦略論の視点からご執筆いただき、本書をしめくくっていただいた。
このような構成でつくられた本書から、経営の多様性と普遍性を学んでいただければ幸甚である。
今年、浜銀総合研究所は、地域の多くの皆様方のご支援をいただき、おかげさまで創立20周年を迎えることができた。
来年には、横浜は開港150周年の年を迎える。わずか100戸数ほどの半農半漁の寒村であった横浜村で、安政元(1854)年日米和親条約が締結され、 その4年後の日米修好通商条約の締結によって神奈川に開港場が置かれ、安政六(1859)年7月1日に横浜は開港した。
開港によって、それまで寒村だった横浜には、国内外からさまざまな人や情報が集まり、新しい技術や文化が生まれた。
このような歴史を持つ魅力ある地域において、弊社は、経営理念に「先見性と創造性と専門性を発揮し、幅広い情報の提供を通じて地域の将来の発展に貢献す る」を掲げ、単なる問題提起にとどまらず、現場に足を踏み入れての実行支援コンサルティングを自らの身上として取り組んでいる。まだまだ力不足ながら、誠 心誠意、地元企業等のご支援に努めてきたつもりである。
私たちが、これまで取材させていただいた独創企業は、まだほんのわずかである。今後も多くの独創企業をお訪ねし、その元気の源泉を探るとともに、多くの中小企業の独創化をご支援させていただきたいと考えている。
ご多忙の中、私どもの企画に快く応じていただき、貴重なお話を熱く聞かせてくださった経営者の皆様方に、この場を借りて改めて心からお礼を申し上げたい。
平成20年7月
浜銀総合研究所 経営コンサルティング部
部長・主席コンサルタント 寺本明輝