独身王子は早く死ぬ?

独身王子は早く死ぬ?
[著]牛窪 恵
価格:1,000円(税込)

本書「はじめに」 ――増え続ける「独身王子」と、二極化する初婚年齢

「一生結婚しない男性は、既婚男性より8~9年早く死ぬ」……。
 そんな衝撃的なデータが、国立社会保障・人口問題研究所によって発表された。既婚男性の平均寿命が「79.06歳」なのに対し、未婚男性の平均寿命は「70.42歳」だという(2005年「人口統計資料集」)。
 原因については、諸説様々だ。背後には「既婚者と未婚者の『所得格差』」の問題も隠れていそうだが、一般によく言われるのは、次の3つである。
(1)未婚男性は時間に自由度が高い分、食生活や生活習慣が乱れやすい
(2)周りに気遣ってくれる人がいない分、仕事などで無理を重ねやすい
(3)(生物学的に)守るべき存在がいない分、生命力が弱まる
 確かに未婚男性の生活習慣は、既婚者より遥かに乱れているケースが多い。第1章でもふれるが、食生活然り、寝起きの時間帯然り、労働時間然り。
「8~9年早く死ぬ」ことを「損」と捉えるなら、一生結婚しないのは大きな「損」、少なくとも寿命を縮める「リスク」を孕んでいると言えよう。
 だが、これはあくまで一つの事象(平均寿命)を切り取っただけに過ぎない。
 私は思った。
「マネーやビジネスなど、もっと多角的に見て未婚(独身)は損なのか? 得なのか?」
「結婚する場合、早婚と晩婚、結局はどちらが得なのか?」
 そして、本書のテーマにたどり着いた。
「いまの時代、未婚と早婚と晩婚、どれを選ぶのが一番得で、安全なのか?」

「いまの時代」と冠をつけたのには、2つの理由がある。
 1つは、バブル崩壊以降、企業とそれを取り巻く社会環境が大きく変わったこと。
 06 年2月、『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版社)という本を書いた。年収や生活レベルに限らず、「結婚したいと言いながらも、実は“いま”がそれなりに楽しい」「恋愛のプライオリティが低く、みずからは“白馬”にまたがらない」、そんな未婚男性を「独身貴族」ならぬ「独身王子」と命名した本だ。
 現在、30代男性の2~3人に1人(38.6%)、40代男性の5人に1人(19.6%)がそれぞれ未婚(05年 国勢調査)。現時点で「6人に1人(15.6%)」と言われる男性の生涯未婚率も、十数年後には「4人に1人」まで上がると見られている。
 20代でいわゆる「できちゃった結婚」をする早婚男性が急増する一方で、40歳を過ぎて結婚に踏み切る男性もいる。足踏みを続ける独身王子もいる。初婚年齢はハッキリ二極化しているのだ。
 独身大国ニッポン。独身王子は年長者から「30、40代にもなって、男が結婚しないなんて」「早く一人前の大人になれ」と揶揄されることも多いが、私が出逢った王子たちは、予想以上にピュアで生真面目な男性ばかりだった。
 決して人生をいい加減に考えているわけではない。ただ、押しなべて「男は結婚したら妻子を養うべき」との古風な観念を捨てきれない。バブル崩壊後、学生時代の先輩や上司、父親がリストラ不安に怯えるのを見て、強くこう感じていた。「いまは自分の仕事で精一杯」「妻子を養う自信が持てない」……。
 ご存じのとおり、年功序列・終身雇用は過去の話だ。社内では日々成果(能力)主義を強いられながら、いつ降格やクビを言い渡されるとも限らない。年金や社会保険料についても、社保庁による一連のミス・不祥事や08年4月の後期高齢者医療制度スタートなどで「老後は本当に大丈夫なのか?」と不安が募る。
 会社は守ってくれない。国も守ってくれない。そんな「いま」の時代、男性は結婚や子作り(子育て)をいつ決断し、どう関わっていけば「得」で安全なのか。その計算式は、10年、20年前のそれとは大きく異なるはずだ。

「いま」に注目したもうひとつの理由、それはこの5年間で「女性」の結婚、出産、仕事に対する意識が大きく変わったこと。きっかけを与えたのは、03年に出版された酒井順子氏の『負け犬の遠吠え』(講談社)に端を発する、「負け犬論争」だ。
 酒井氏いわく、「30代で未婚、子ナシの女性は『負け犬』」。「未婚」だけに注目しても、負け犬はいま全国に「4人に1人(25.2%)」、東京都では「3人に1人(33.8%)」もいる(05年 国勢調査)。
 男女雇用機会均等法が施行されたのが、約20年前の1986年。その後に新卒採用された私たちバブル世代(おもに1960年代生まれ。現30代後半~40代後半)の女性は、入社当初「よし! これで男性と肩を並べて働けるぞ」と奮起したものだ。
 だが現実は、甘くなかった。「会社」という組織の下では、どんなに必死で働いても男性並みには評価されにくい。仕事に夢中になればなるほど、結婚や出産とは縁遠い「負け犬」に近づく。ふと気づけば、30代半ば。仕事もプライベートも不完全燃焼、「出産の賞味期限(一般的なイメージは37~38歳)」も目前に迫る。
 そして思う。「ああ、もっと早く結婚しておけばよかった」……。
 一方で、男性の年収は上がらない。後ほど詳しく述べるが、現在30代男性の平均年収は、約508万円(06年 国税庁「民間給与実態統計調査」)。決して少ないとは言えない額だが、実は背後で「二極化」が進んでおり、年収数千万円という一部の高所得男性たちが平均値を押し上げているに過ぎない。25~34歳の未婚男性に限ると「年収600万円以上」はわずか 3.5%(03年 山田昌弘、厚労省助成調査)。バブル期に騒がれた「3高(高学歴、高収入、高身長)」の男性を捕まえるのは、至難の業と言える。
 だったら、たとえ理想年収が「700万円以上」でも、早めに年収300万~400万円の「そこそこ」の男性と結婚して子どもも産んでおくほうが安心だ。
 仕事だって同じ。現在、働く女性のうち正社員はわずか47%。10年前に比べて133万人も減った計算だ(07年 厚労省「女性労働白書」)。ボーナスはない、給与も伸びないなら、結婚・出産後も続けられる「そこそこ」の職場がベター。すべてを犠牲にする「バリキャリ(バリバリ仕事に打ち込む女性)」より、肩肘張らない「ふわキャリ(ふわふわリラックスしながら仕事する女性)」を目指そう……。
 いつか王子の伴侶となるであろう20~30代の女性たちは、時代の変化を見てそう割り切った。結婚の前提は「心地よい共働き」。第3章で詳しくご紹介するが、伴侶に求める要素も10年前とは大きく様変わりしているのだ。

 そこで今回、そんな「いま」の社会背景と女性の意識変化を強く意識しつつ、「ビジネス&健康」「趣味&恋愛」「子育て(子作り)」、そして「マネー」の4つの観点から、王子にとっていまの時代に「最も安全で得」な婚期を探ることにした。
 もう一つ、外せないと考えたのが「既婚男性」へのインタビュー。
 独身王子の多くは、「いつかは結婚したい。でも結婚は損だ」と捉えている。周囲の既婚男性らが異口同音に「結婚してもロクなことがない」「小遣いが少なくて困る」「休日は家族サービスで大変」と悲鳴ばかりあげるからだ。
 確かに、家庭不和から「結婚しなければよかった」と心底悔やむ男性もいる。たとえ円満でも、可処分所得は独身時代のそれを大きく割り込むのが一般的だ。第 2章でふれるが、07年現在でサラリーマンの平均小遣いは、月々「4万8800円」。未既婚別に見ると、未婚男性の「6万2000円」に対し、既婚男性は「3万7000円」と月2万5000円の差がある(07年 GEコンシューマー・ファイナンス「サラリーマンの小遣い調査」)。
 ただ、もちろん結婚している男性が皆「結婚は損」と捉えているわけではない。
 独身王子に向かって「いいな、お前は。独身でおカネも時間も好きなように遣えるもんな」と発する妻帯者も、言葉とは裏腹に「おいおい、早く結婚しないと一生結婚できなくなるぞ」と、斜めから見ている向きもある ……今回、約40人の既婚男性(含:バツイチ)にも深く話を聞き、改めてそのことが分かった。
 だとすれば。既婚者の「結婚は損」の言葉に囚われて「なんとなく」婚期を先送りするのは、あまりにバカバカしい。様々な実データや生の声を基に、もっと現実的に「損得」を分析し、それをわが身に置き換えて欲しい。そう思った。
 結婚はしてもしなくても構わない、もちろんその通りだ。
 当面の(結婚)相手がいないのに「婚期」を考えても意味がない、それも一理ある。
 だが、独身男女の9割前後が「いずれは結婚するつもり」と答えながら(05年 国立社会保障・人口問題研究所「第13回出生動向基本調査」)、結婚希望年齢を「なんとなく30歳」から「なんとなく2~3年後」へと先送りし続けている。現実には「いま特定の恋人がいない男女」が1年以内に結婚できる確率は、わずか「2~5%」(06年 経済産業省「少子化時代の結婚関連産業の在り方に関する研究会」)しかないのに。
 ならば、ただジッと「偶然の出逢い」を待つより、ある程度計画的に出逢いや婚期、結婚するかしないかを考えるほうが「得」に決まっている。
 まさに「仕事」と同じこと。社会学者の山田昌弘氏は、「現代は『就活(就職活動)』ならぬ『婚活(結婚に向けた活動)』が必要な時代だ」と唱えるが、私も同感だ。日々漠然と「いつか」を先送りするより、「○歳までに」「○年後までに」と事前にメドを立て、とりあえず目標に向けて行動に移す。計画どおりに事が運ぶとは限らないが、結果が多少イメージと違っても、後悔の度合いは格段に低いだろう。
 多くの独身王子は、何なくそれをやれるはずなのだ。
 だって仕事となれば、就職でも転職でも着実にデータを集め、冷静かつ多角的にそれを分析できる。営業現場でもただジッと「偶然の客」を待つのでなく、事前にキチンと戦略を立てて動く。それでも結果が出なければ、ある時期に見切って、別の施策を考える。まさにマルチに動ける、生真面目で行動的な男性たちなのだから。

 結婚生活は、独身生活以上に「十人十色」「百組百様」。だが今回、既婚の男性たちに取材して改めて確信したことがある。
 それは結婚前、様々な角度から「婚期」や「結婚するかしないか」を真剣に考えた男性ほど、明らかに結婚後も後悔が少ないこと。そして男性にも女性同様、いまの時代ならではの「適齢期」が歴然と存在することだ。
 ……あなたはいま、何歳だろう。
 07 年にライオンが実施したビジネスマンの意識調査によると、20~40代のビジネスマンが「男の曲がり角」と考える年齢は34.7歳と、意外に早い。項目別では、体力面で32.5歳、外見面で34.6歳、そして精神面(考え方が守りに入るなど)で36.2歳を「曲がり角」と捉えているという。
 人生は、思うより長い。たとえ曲がり角を過ぎても、本気にさえなれば軌道修正や方向転換はできる。出産の年齢制限がない男性は、なおさらだ。
 だが、人生は思うより短い。もしあなたが「一生独身」で過ごすなら、平均寿命は70歳。人生の折り返し地点は「35歳」だ。50代まで先送りを続け「この先どうしよう」と悩んでも、軌道修正には膨大なパワーが要る。対策を練るなら、絶対に早いほうがいい。
 大切なのは「いつか」ではなく「いま」考えること。本書を通じて、独身王子の皆さんにいま一度、結婚の「得」とリスク回避について、真剣に考えていただきたい。
 そしてもう一つ。50代、60代の既婚者の皆さんや、女性の皆さんにもぜひお読みいただきたいと思う。
「結婚」を取り巻く環境は、既に昔とは大きく様変わりしている。バブル崩壊後、合理性を重んじる社会システムが、「出逢い」のきっかけを奪い「幸せな結婚」の幻想を奪った。なぜこんなに多くの独身王子がこの10年、結婚に踏み切れなかったのか。そして妻子ある早婚、晩婚の男性たちはいま、結婚生活の何を不安(不満)に感じているのか。
 本書が改めて「いまの時代」と「結婚」を見直すきっかけになれば、これほど嬉しいことはない。

2008年5月 牛窪 恵

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