営業ドキュメント「同行指導」の現場

営業ドキュメント「同行指導」の現場
[著]山本藤光
[装丁]下川雅俊
価格:1,500円(税込)

まえがき

 2001年8月に、『暗黙知の共有化が売る力を伸ばす・日本ロシュのSSTプロジェクト』(プレジデント社)という本を上梓しました。そのとき私はまだ、日本ロシュに在職中でした。会社の内情をこんなに赤裸々に書いていいのか、と批判する人もいました。

 しかし当時の会長も社長もあっけらかんとして、「書いてしまえよ。知は減るものじゃない」と言ってくれました。あれから7年。今では独立をして、「SSTプロジェクト」の経験をベースに、企業の営業リーダー研修をさせていただいています。

「SSTプロジェクト」とはスーパー・スキル・トランスファーの略で、いわゆる「名人芸移植プロジェクト」です。全国700人の営業現場から、トップの営業担当者24人を選抜。彼らの徹底的な“同行指導”により、優れた営業スキルやノウハウを平均的な営業担当者に移植するのがねらいでした。1年半をかけてこの「同行専任部隊」が全国を渡り歩き、営業担当者のレベルアップを実践しました。彼らは朝から晩まで、ひたすら同行を続けました。
 的確な同行指導を実施すると、確実に営業生産性は上がります。その現実を、本書を通じて実感していただきたいと思います。小さな力でもそれを効率よく回せば、とてつもなく大きな力となります。SSTプロジェクトは、わずか24人(全体の3.4%)の全国トップ営業担当者の力で、23%もの業績を向上させました。24人の力が、どのように全社へ広がるのか。その仕組みにも、注目していただきたいと思います。

 本書では同行指導の威力を劇場型ストーリーで、あますことなくお伝えさせていただきます。営業リーダーの70%は、忙しくて同行する時間がないと言っています。さらに彼らは、威力のある同行について学んでいません。したがって、我流の同行が蔓延しているのが現実です。こんなことでは、部下は育てられません。
 チーム間の業績格差は、紛れもない人災です。優秀な営業リーダーの下では、営業担当者は見事に育っています。計画的な育成同行が、実施されているからです。本書にはその具体的ノウハウを、ふんだんに盛り込んであります。学んでいただきたいし、実践していただきたいと思います。
 2002年ロシュ・グループは、中外製薬を傘下に収めました。日本での存続会社は日本ロシュではなく、中外製薬となりました。リストラの対象者リストに、私の名前もありました。迷った末に、辞めることにしました。割り増しの退職金をもらい、どこかに転職しようと考えていました。
 しかし56歳では、再就職の道がありませんでした。仕方がないので自分で会社を設立し、山本藤光を雇うことにしました。独立して3年間は、ほとんど収入がありませんでした。割り増しの退職金は、あっという間に、底をついてしまいました。
 設立した会社は営業リーダーの部下育成を、ビジネスの柱にしていました。いつか必ず立ち上げた会社に、フォーカスがあたる日がくる。そう信じていました。
 2005年、その想いが現実となりました。大手企業から次々に、営業リーダー研修の依頼が舞い込んだのです。もはや、一律の集合研修の時代ではない。営業担当者のレベルアップのためには、個々にふさわしい指導が求められています。つまり一律の集合研修から、バトンは営業リーダーの個別指導へと渡されたのです。
「教える」には、結果責任がありません。これまでの集合研修は、結果責任が問われていなかったのです。営業リーダーの「育てる」には、結果責任が伴います。育っているのか否かの「結果」を、どう判断するのか。本文では、そのヒントも紹介させてもらいます。

 SSTプロジェクトの中身を、臨場感のあるドキュメントとして表現してみたい。ずっとそう思ってきました。しかし前作と同じものを書いても意味がない、と自身を抑制する気持ちもありました。そんなときに、拙著『最下位営業チームがトップになった・ビリーの挑戦』(医薬経済社)の読者から手紙をいただきました。
「シナリオになっているビジネス書を、はじめて読みました。チームメンバーにも買い与え、会議のときに何度も読み合わせをしています。理想的なチームを部下と共有し、チームが一つになり、営業活動が活発になりました。ありがとうございます」

 そんな内容でした。強く背中を押されたような、気持ちになりました。気がつくと夢中でドキュメンタリー、「SSTものがたり」を書きはじめていました。書きながら当時を思い出して、何度も高揚した気持ちになったものです。本書の舞台は製薬会社ですが、あらゆる業種の営業担当者にも通じる話だと思います。

 1年半の「名人芸移植プロジェクト」を、このものがたりを通じてぜひ体感していただきたいと思います。

 黙っていても売れる時代は、とうに終わりました。個々の営業担当者を鍛え、育てなければ売れない時代になったのです。SSTプロジェクトを再度、世に問わなければならない、と今強く思っています。

2008年 春  山本藤光

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