日本溶解論

日本溶解論
[著]三浦 展
価格:1,500円(税込)

本書「はじめに」

ジェネレーションZとは
 カルチャースタディーズ研究所は、広告代理店のスタンダード通信社からの依頼を受け、15歳から22歳を「ジェネレーション」(Z世代)と名付け、全国のその年齢の男女を対象とするアンケート調査を行った。調査時点の2007年7月から8月の15~22歳は、ほぼ1985~92年生まれに当たり、現在の高校生、大学生などである。
 ジェネレーションZは、ジェネレーションX、ジェネレーションYに次ぐ世代を名付けるために三浦が考案した概念である。ジェネレーションX、Yともにアメリカのマーケティング概念が日本に輸入されたものだが、日本では一般的にジェネレーションXが1970年代前半生まれ、Yが70年代後半生まれの世代を指し、団塊世代(狭義には1947?49年生まれ)の子どもを多く含む世代である。
 それに対して、ジェネレーションZはX、Yより10~15歳ほど若く、新人類世代(私の定義では1960~68年生まれ)の子どもがかなり含まれている。少子化が進んでいるが、ジェネレーションZも7歳合計すればX世代と同じくらいの人口規模を持っており、親がブランド好き、高級品好きな新人類世代であることを考えると、企業にとってはまだまだマーケットとして無視しがたい存在と言えるだろう。
 しかし、調査の結果からZ世代の特徴を分析していくと、単に消費の主体としてのみ彼らを見ることが無意味に思えてくる。

Z世代はネット世代
 まずZ世代はネット世代だ。彼らの生まれた時代は、ファミコンの発展期であり、また小学校以降は携帯電話とインターネットの普及とともに育った。多くは中学生時代あるいは小学生時代から携帯電話を持ち、メールを利用し、家庭ではインターネットを使ってきた。もちろんテレビゲームは幼児期から親しんできている。そして今ではiPodで音楽を聴き、You Tube で映像を楽しんでいる。
 本調査の第一の目的も、この世代の情報行動を探ることだった。しかし、その他様々な質問を設定したところ、情報行動だけでなく、価値観、生活行動の様々な点で驚くべき結果が次々と現れたのである。

バブル崩壊とグローバリゼーションの影響
 Z世代はバブル期に生まれた世代でもある。そして小学校入学は92年から99年だから、バブル崩壊の時代に当たる。どうもその影響がZ世代には少なからずあるように思える。バブル崩壊は、それまでの日本社会の価値観が溶解する大きな契機となったと思われるからだ。
 まずバブル崩壊によって、企業の倒産が増加した。そして年功序列、終身雇用システムの崩壊。また、経済のグローバリゼーションと規制緩和の波の中で、会社はいつ乗っ取られるかもしれない不安定なものになった。
 戦後日本の経済成長と安定した人生設計の基礎にあった「日本株式会社」が弱体化することによって、勉強して会社に入って、生涯正社員として安定して働くという人生コースが当たり前のものではなくなった。Z世代の親はまさにこの変化の荒波に直撃された。Z世代の家庭にも、この10年あまり、経済的に不安定になった家庭が多いはずだ。
 Z世代が小学校に入った92年から99年には、オウムによる地下鉄サリン事件、阪神・淡路大震災、酒鬼薔薇聖斗による猟奇的な殺人事件に代表される「キレる14歳」現象など、社会の根本的な価値観を揺るがすような事件もあった。中学校入学は98年から2005年であり、一度回復した景気が再度後退し、山一証券破綻に象徴される大企業の倒産が相次いだ。犯罪件数、自殺数も増加し、「キレる若者」という言葉がメディアを賑わせた。
 高校入学は2001年から2008年にかけて。「9.11」によってテロ時代が始まった。宅間守による小学生殺傷事件や多くの連れ去り事件に象徴される、未成年を被害者とする事件、あるいは佐世保の小学6年生少女による同級生殺害事件などの陰惨な事件が多発し、社会不安が広がった。
 酒鬼薔薇聖斗も佐世保の少女もほぼZ世代と考えられるが、彼らは親などの親族を殺害する事件を相次いで起こしているように見える(たとえば2007年5月、福島県会津若松市に住む高校3年生の少年が母親を殺害、切断した右腕をスプレーで白色に塗って植木鉢に差し、同じく切断した頭部を持ってインターネットカフェに行き、そのあと自首した事件。たとえば2008年1月、青森県八戸市に住む無職の18歳少年が母、弟、妹を刺殺し自宅に放火、母親の腹部を割いて人形を詰めた事件など)。ちなみに尊属殺人の件数は2001年から増えている。
 また、未成年の妊娠中絶実施率を見ると、1996年頃から増加し始め、2001年にピークに達しているが、2001年の15~19歳というとZ世代の直前である。その後もあまり中絶は減っていないので、Z世代もこうしたトレンドの中に含まれると言える。
 このようにZ世代はこれまでの常識的な価値観では計りしれない存在であるが、これはわれわれのこれまでの社会の制度や価値観が様々な局面で「溶解」し始めたことがZ世代の精神に大きな影響を与えたためではないかと思われる。大震災もテロも親殺しも、「ありえないこと」「あってはならないこと」と言われながら、実は何でもありの時代。ゲームの画面のような9.11とアフガン攻撃シーンが現実であるというリアリティの混乱した時代。そんな時代の中でどこに本当のリアルがあるのか? 信じられるものがあるのか? と疑問に思っているのがZ世代だと言えるかもしれない。

パソコンと携帯の両方の利用者が対象

 こうしたZ世代の特徴を探るべく、調査はパソコンによるインターネット調査を1回、携帯電話のサイトを使った調査を3回実施した(調査概要は181ページ。以下「PC調査」「携帯1次調査」「携帯2次調査」「携帯3次調査」と略す)。
 インターネット調査と携帯調査を並行して行った理由は、Z世代の家庭でパソコンを保有している家庭は階層が比較的高めであるため(188ページ参照)、回答内容に偏りが出ると思われたからである。そこで携帯調査も行うことで階層的に上から下まで幅広いサンプルを集めることができたと考える。
 もちろん、携帯利用者が必ずしもパソコンを持っていないわけではないし、パソコン利用者が携帯を持っていないわけでもないが、日頃から主に携帯を利用し、調査にも携帯を通じて回答した者と、日頃からパソコンを利用し、調査にパソコンを通じて回答した者とでは、おのずと回答傾向に差が出るのである。
 なお、携帯調査については男子の回答者が少ないので、男子を多角的に分析することはできないため、分析は女子が中心となっている。

Facebookに投稿

最近チェックした商品