ここに取り上げた24冊の著作を読んでいるとき、私はいつも気分爽快だった。
遠い昔、やくざ映画を見た若者が、肩をいからせ外股になって映画館から出てきたということがよく言われた。恥ずかしながら私もその一人だった。それと並べては怒られてしまうが、著作を読んでいる間、彼らが主演する“劇場”のかぶりつきで彼らの辣腕ぶりを身を乗り出して堪能し、ついには自分でも見事なリーダーシップが揮えるのではないかという気にさえなった。
私はビジネスにおける「教育」とか「研修」というものをあまり信じていない。
水泳を覚えるには実際に水の中に飛び込んで水と格闘するしかない。それと同様、ビジネスを覚えるには仕事の現場に生身で踏み込んで現実と向き合うしかない。
ただし「門前の小僧習わぬ経を読む」という諺があるように、身近によい見本があれば、そのやり方は無意識のうちにも周囲の人間に浸透して、彼らが仕事の現場に踏み込むときに役に立つだろう。ここに取り上げた人たちは、みなビジネスの達人である。達人たちの実践記録は多くのビジネスマンの耳目に焼きつき、心身に浸透するだろう。
これらの著作を読んでいるうちにしきりと私の脳裏に、
「基本こそ奥義」
という言葉が浮かぶようになった。
彼らはみな新入社員でも「これなら納得だ」と、ひざを叩いて受け容れるような基本的なやり方を実践している。
まず明確な目標を示す。
それを遂行するために必要な情報を惜しげもなく内外に開示する。
さらに部下たちが「この人のためだったらたとえ火の中水の中」といいたくなるような懐の広さで、彼らの意欲を最大限に引き出す。
その上でプロジェクトの成否のリスクを自らがとる。うまくいかなかったら誰か別の人のせいにするような、部下がもっともやる気をなくすことは金輪際やらない。
こうしたことは多くのビジネス書で提言されている。しかし提言されていて、いかにも効果的に思えても、実際にやれるかどうか、読者は半信半疑の思いに駆られるようだ。「言うは易く行なうは難し」という言葉があるが、あまりに理想的な提言は、たんにお題目として掲げられているに過ぎないと思うのだろう。
そんな人たちの半信半疑も、実際にそれが行なわれているのを見れば、あっという間に吹き飛んでしまうに違いない。もちろん、それぞれの個性を反映するにせよ“奥義につながる基本”は誰にだって実行可能なのである。
本書は浜銀総合研究所が発行している『ベストパートナー』の2006年1月号から07年12月号にかけての連載に加筆したものである。
古今東西、数多く存在する名経営者の著作の中から24点を選んだわけだが、選択方法はおよそ次の通りである。
・対象にしたのは本人が書いた(聞き書きであっても)著作で、いかに名経営者でも本人以外の作家の書いた評伝・人物論は選ばなかった。
・この前提で古今東西の評価の高い経営者を100名ほどリストアップし、その著作を対象とし、経営者の重要性と著作の面白さを基準に選考した。
・ある経営者にいくつかの自著がある場合は、その内容の充実度と彼の活動をトータルに伝えているかどうかを総合的に勘案して選考した。
素晴らしい経営者であることは実績や多くの資料・証言から明らかであっても、自著がないので取り上げられなかった人は大勢いる。また中身の濃い自著があっても24冊の枠からはみ出した人も少なくない。
この24冊の多くは過去にベストセラーとなって、ビジネスマンの記憶に強く刻み込まれているだろう。
しかし、ほとんどの著作は電車の行き帰りでは簡単に読めないほど大部なので、途中で投げ出して積ん読になっていたり、またためらっているうちに入手し損なった人も少なくあるまい。
そういう人のために私は原著をコンパクトな小宇宙に写し取るべく、重要ポイントを串刺しにすることを心がけた。それが成功していることを願っている。
2008年3月
江波戸 哲夫