「泣くときには泣け、笑うときには笑え!」 喜怒哀楽のリーダー学、男気の人間経営、――その発想と全行動を徹底分析!!
星野仙一が中日ドラゴンズの監督を務めていた頃の話である。コーチ陣が遠征先などで、「まあ、一杯」と杯を傾けるときがある。そんなとき、監督のいないところで決まって歌われたのが、「浪花恋しぐれ」の替え歌である。
「♪星野のためなら女房も泣かす、それがどうした、文句があるか……」。
単身赴任で、いわば母子家庭状態のコーチの留守宅に、時折、花などが手紙を添えて届けられていた。監督・星野からである。テレビ画面で見せる怒りの闘将、乱闘騒ぎの主人公からはうかがいしれない、別の顔である。
星野に殴りまくられた中日の正捕手、1億円プレーヤーの中村武志が、「なぜ阪神に呼んでくれないのか」と星野を慕い続けたのも不思議である。ドラゴンズ 時代の後援会「仙友会」には、有力財界人250人がキラ星のように居並んだ。また、2年目を迎えた今年の阪神タイガースでは、星野のひと声で、伊良部秀輝をはじめ、元巨人のエース・西本聖、広島の元監督・達川光男など、曲者たちが続々と馳せ参じる。
星野の「ジジ殺し」という言葉もある。
なぜか、気難しいことで知られる年長者にかわいがられてきたからだ。古くは明治大学の野球部時代、名物監督で「御大」と呼ばれた島岡吉郎のもとでは、「御大から殴られなかった稀有なキャプテン」として、ひとつの伝説を残している。
また、日本プロ野球界のドン、川上哲治もいる。ドラフト会議で星野を袖にし、「巨人をやっつけることが命」にした張本人に対し、星野は現役時代の14年間、ひと言も口をきかないまま押しきった。戦闘者としての意地だ。しかし、同じNHKの解説者となってからは、またたく間に親交を深め、川上は星野を、なぜか「仙ちゃん」と呼び、かわいがる。
この不思議な星野の人間力を縦糸にし、彼の高校時代からの野球界での活躍を横糸として、知られざる闘将の素顔を、本書では追ってみた。
明治大学のエースとして"法政三羽烏"の一人、22本のホームラン記録を作った天才長距離打者・田淵幸一に果敢に挑み、1本もホームランを打たれないばかりか、32打数5安打、1割5分6厘と押さえ込む。
また、プロ入りしてからは、あの宿敵、燃える男・長嶋茂雄に真っ向勝負、その結果は、6年間を通じて2割3分4厘。ちなみに、ONを擁し、V9という奇 跡的な記録を打ち立てたプロ野球史上最強チーム、常勝・巨人軍に対し、星野仙一は、5割3分という驚異的な勝率を残している。Bクラス球団の、豪腕でも怪 速球投手でもなかった選手が、である。
長引く不況もあってか、周囲の顔色をうかがうことが習い性となり、喜怒哀楽を置き忘れたかのような浮かない表情の人が、このところ多い。「強きにすり寄り、弱きをイジメ、拝金主義が跋扈する」冷え冷えとした時代に、強者に敢然と立ち向かい、いまなお熱き血潮をたぎらせ続ける異能の人の物語を、ここで物語ることができれば幸いである。
高田実彦
(──本書「はじめに」)
[著] 高田実彦 たかだ・みつひこ
1935年、長野県生まれ。スポーツジャーナリスト。元東京中日スポーツ総局次長。著書に『野村克也の「人材再生」工場』(プレジデント社)『プロ野球選手その世界』『一億人を退屈させない男・長嶋茂雄』『楽しい話いい話』『学ぶなら長嶋だ!』など。














